世に天災地變は多しされとも大正十二年九月一日關東地方一府五縣を襲ひし震災ほと強烈にして而も其の被害の大なりしは近時他に類例を見さ
るところなり殊に横濱市は震源地に近かりしかは其の震動最も激甚にし
て家屋の倒壊せるもの其の數を知らす續いて起りし火災は折からの烈風
に煽られて忽ち全市を嘗め盡し六十年來苦心經營せられし市の文化的施
設も一朝にして殆と烏有に歸したり當時の横濱地方裁判所は巍然たる煉
瓦建築なりしか是亦其の惨害を免れさりしのみか恰も執務中なりし末永
所長を始め判事檢事辯護士等多數の殉職者を出し偶召喚に應して出廷せ
し證人鑑定人その他訴訟關係人等の厄難を共にせし者も亦鮮からす其の
死者の多きこと全市中の首位にあり實に酸鼻の極と謂ふへし爾來星霜移
りて茲に十有三年市の復興は既に成り裁判所も亦新に此の處を選ひて建
造せられ輪奐の美と設備の充足とは遙に舊廳舎の上に在り今しも是に對
して徃時を回想する者誰か悵然として暗涙を催さゝるへき乃ち同志胥謀
り多數篤志家の賛助を得て碑を建て殉難者諸氏の姓名を勒し永く追憶の
資に供せんとす諸氏の英霊も亦以て聊か慰むるに足るものあらむか
昭和十年九月一日
司法大臣小原直題字 横濱地方裁判所長長岡熊雄撰文
水竹 長屋鉄之助書
（裏面）殉難者氏名
横濱地方裁判所長判事 末永晃庫 五十五年
檢事 福鎌文也 四十七年
（以下略）
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